Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

裏返せ 俺を

 私はコルネットを吹いていた高校の吹奏楽の遠征で山形に来ていて、会場だった県民会館から、クラリネットの先輩と二人、通りを歩いて八文字屋書店に入りました。中高生のころ、詩ばかり読んでいた私は、本屋では文庫本の詩集を真っ先に見るのが常でした。盛岡の書店で探したときに、それを見つけられなかったように覚えています。

 角川文庫の『谷川俊太郎詩集』は、そうして高校・大学時代に、私の愛読書の一つになりました。有名な『二十億光年の孤独』や『六十二のソネット』ではなく、『愛について』『愛のパンセ』『あなたに』などが、若い私をとらえて放しませんでした。「愛について」「月のめぐり」「数える」「悲しみは」「頼み」「沈黙」「窓」「くりかえす」……。世界と拮抗することばの力を、これほどまでに教えてくれるのが詩であったのか! それは、私の大切な出会いの記憶です。

 1950年代から60年代に書かれたこれらの詩は、それ以外も含めて、今でも決して古びていません。谷川さんは、私の父の世代ですが、他のどんな詩人よりも、いつでも、常に私の今を歌ってくれているように感じます。現代が生んだ、最高の天才の一人であることに、私は何の疑いも持ちません。

 私のそのような出会いは、多くの場合、書店か図書館で行われました。あのとき買った文庫本の紙の匂い、光沢と手触り。何冊も谷川詩集を持つようになってからも、あの本の思い出が消えることはありませんでした。

 作品との「出会い」のカテゴリーを新設し、少しはブログらしい、私的なエピソードも、少しずつ書くことにします。あなたも、よろしければそのような記憶を書き込んでください。