Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

先行研究の引用の仕方

 論文の書き方で、初め必ず戸惑うのが、先行研究の引用や参照の仕方です。先行研究(「従来の研究」ともよく呼ばれます)が、それじたいに価値があるのはもちろんのことです。しかし、論文を書く場合の先行研究は、それの価値として完結しない、ということを念頭に置かなければなりません。

 もちろん、研究論文や評論そのものを研究対象とする場合には、その論文や評論の比重は、それを論じる論文の中では非常に大きなものになります。しかし一般には、あるいはその場合であっても、いやしくも論文とする以上は、自説の主張にいちばんの力点を置かなければなりません。これは当然のことですよね。

 先行研究の引用ばかりしている論文、あるいは、先行研究によりかかりすぎている論文は、しぜん、評価が低くなります。それは俗に「引き出し整理」と呼ばれることもあります。確かに、研究史や先行研究の解釈は大事であり、それをきちんと書くことは習熟を必要とする作業です。しかし、やはり「その先」がなければならないのです。

 そこで、私は先行研究を適切に参照し、しかもそれに飲み込まれないようにするために、次のような書き方を勧めています。

1)「論文の最初に、その論文の目的を明らかにするために、先行研究を引用・参照し、それと対比する」

 この論文は研究史や研究状況において、どのような意味を持つ研究なのか、それを明確にするためには、これまでの説との対比において述べるのが、最も分かりやすいと思われます。大事なのは対比です。引用・参照そのものではありません。

2)「論述の途中に、論旨を明らかにするために、先行研究を引用・参照し、それと対決する」

 対決とは、批判・展開・補足など、やはり対比と言ってもよいものです。論旨を明確化し、自説の研究上の位置づけをはっきりさせるために引用するのです。引用して終わり、では、何のための引用か分かりません。きちんとそれを解釈し、論述に組み込むことが肝要です。