Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

液状化(マンガ・アニメ)

 マンガ版『風の谷のナウシカ』で、僧会のマッド・サイエンティストらによって培養された粘菌は、ナウシカの手で解放され、地表を覆い尽くして荒廃させます。反面、腐海は多層に分かれていて、土壌の毒を浄化し、砂と水に還元するロボットであることが明らかになります。王蟲の出す究極の生命維持物質である漿もあわせ、粘液質または液状のものは、『ナウシカ』では重要な役割を果たします。

 アニメ版『ナウシカ』では、液状化の様相はそれほど顕著には現れてはいませんが、巨神兵が最後にドロドロに腐って流れ落ちる場面があります。ストーリー上は全く異なるマンガ版『ナウシカ』の結末でも、巨神兵オーマはナウシカの命に従ってシュワの墓所を光で攻撃し、墓所ともども崩落します。巨神兵墓所も、ヒドラ(人造生命体)でした。

 『エヴァ』で、エントリープラグ=コクピット内を満たしたLCLの溶液は、直接、肺に酸素を送り、またエヴァとシンクロするための媒材でした。そのLCLの成分は、原始地球を構成した海=生命のスープと同じとされ、そのLCLの海に、シンジの身体は形を失って溶解します。漿やLCLの海にいる限り、彼女=彼は絶対安心で、究極の調和状態を獲得できます。けれども、それは文字通り、手も足も出ない状態でしかありません。

 液状化はこのように、浄化/崩壊、生命/死、調和/混沌の両義性を同時に表現することのできる、極めて重要なイメージの源です。近未来SFでは、このイメージが、テクノロジーの倫理と絡めて用いられているのです。もちろん、これがバシュラールの『水と夢』で論じられ、泉鏡花タルコフスキー溝口健二その他の多くのテクストに現れた、水のイメージと通底することは言うもさらなることがらです。