Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

カラー映画に見る昭和初期の日本

 NHK・BSで放送された番組について、MGの授業で触れました。戦前にこれだけのカラー映画が残されていたことも、またそこに映された江戸東京のたたずまいを残した風景や、モダニズムに沸く都市空間のありさまの色鮮やかさも、とても新鮮な驚きでした。絵画でだけ知っていた新感覚派や新興芸術派の時代のモダン東京。カラー映画が見る者に訴える力は絶大なものがあり、だからこそその圧倒的な情報量に危惧したアメリカ政府が、防衛の観点から、カラーフィルム(ひいてはフィルム全般)の輸出を抑えたというナレーションもうなずけました。

 桜の花の枝垂れる下、和服の晴れ着に着飾った女性たちが船遊びをする川の流れから始まり、ガレキの平原=焦土と化した大空襲後の東京や、無惨に瘢痕の刻まれた広島の被爆者の身体の記録映像で終わるこの特集は、あの戦争が、どれほど生命・文化・自然のすべてを根絶やしにしてしまったのかをも強く印象づけています。

 この番組にいう映画なるものは、すべて劇映画ではなく、素朴な記録映画や素人の撮影した趣味の映画に過ぎません。もちろん、NHKによって物語化され、劇的に編集されている要素は大きいと思いますが、むしろそのような素朴な映像ほど、心に訴えかけてくるのはなぜなのか、多くの巧みな虚構の映画を愛する者としても、考えてみなくてはなりません。

 「授業の補足」のカテゴリは、補足というよりは余談を述べます。授業の本筋に関わる大事な補足は、もちろん、授業の中で行います。