Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

2006-01-01から1年間の記事一覧

書くことを忘れたあなたへ

「あなたには書くべきことがあり、あなたには書く能力がある。それなのに、なぜあなたは書かないのですか? 私の心のわだかまりは、いつもそのことに向けられています。書かない人に、無理に書かせることはできません。書くことほど、本質的に主体的な行為は…

卒業論文心構え

卒業論文の仕上げの時期にかかってきました。私が学生だった頃は、卒業論文を書くのは一大事業で、何カ月かは夜昼逆転の生活を送ったり、大学や人前に姿を見せない引きこもりになったりするのは普通のことでした。100枚もの論文を書くのは今でも易しいこ…

「神がいないのならば、私が神だ」

大学に入って最初に受講した講義の中に、ああ、おもしろいな、と思えるものは、一つしかありませんでした。心理学も社会学も国語も、何だかよそよそしいものでしたし、文学という名の授業は取らなかったように思います。高校時代にもけっこう授業をサボって…

コノテーション2

フリッツ・ラング監督の『M』の冒頭で、変質者に娘が誘拐されるシークェンスがあります。娘がボールで遊びながら道路を歩いていて、男に声をかけられ、盲目の風船売りから人形型の風船を買ってもらう。家では母が、帰りの遅い娘を待ちながら、夕飯の支度をし…

コノテーション1

ロラン・バルトは、記号の一般形態をERCと書きました。E(表現)とC(内容)とのR(関係)が記号を形作る、というものです。基礎はソシュール流の2項対立図式ですが、2つの点で優れた表記法です。すなわち、1つは、括弧を用いた表記法によって、コノテーショ…

無限の解釈項

2項対立の図式によるソシュールの記号学とは異なり、チャールズ・サンダース・パースの記号学は、表象・対象・解釈項の3項対によって記号を理解します。これをパースは、第一次性・第二次性・第三次性として一般化し、第一次性についての第一次的記号、第一…

Project M-受講学生用掲示板開設のお知らせ

前期のYU教養教育単位互換eラーニング授業に引き続き、後期の教養教育「メタフィクション研究」は、LMS(授業支援システム)であるBlackboardを、授業用ポータルサイトとして利用する授業となります。 このことを含めまして、受講学生用に連絡や予定の公…

土の中の彼女の

何が最初だったのか、この世の営みには、憶えていないことが多いけれど、それだけは明確に憶えています。講談社文庫・黄色い背の『風の歌を聴け』でした。何にせよ、こちらが求めたわけではないのに、(この本を読んでごらんなさい)と言われて、貸してもら…

総目次(2006年7月~8月)

【術語集】 書簡体小説2(全面的書簡体、挿入式書簡体) ドキュメント形式3 書簡体小説 ドキュメント形式2 姦通小説4 姦通小説3 姦通小説2 人物3(小説・映画) メロドラマ 世代論 液状化(マンガ・アニメ) 癒合(映画・アニメ) 【情勢】 心脳コン…

ソリューション

eラーニングの仕事に携わらなかったら、こんな言葉の用法を知ることもなかったでしょう。つまり、IT技術を利用した問題の解決、というよりは、IT技術上の問題の解決です。IT企業は客に個々のニーズに応じたソリューションを提供する、というように使…

様式史研究会開催のお知らせ(再掲)

恒例の様式史研究会(第48回研究発表会)を下記の予定で開催します。 どなたでも参加できます。参加無料です。 お誘い合わせの上、ふるってご参加ください。 お問い合わせはここにコメントを書き込むか、またはProject Mのメールアドレスまでどうぞ。 日時 2…

日記体小説

日記体は、ドキュメント形式の一つです。書簡体・日記体・手記体の3大ドキュメント形式のうち、書簡体と日記体は、多くの場合、フラグメント形式とも重なりを有します。また、ドキュメント形式は一般に、ドキュメントと、それが属する上位の物語との間の虚構…

断章集積形式(フラグメント形式)2

断片(断章)を定義すると、「全体に回帰しない部分」と言えます。元来、部分は全体との関わりで部分であるので、集合論で習ったように、全体もまた部分の一種です。部分は全体を、全体は部分を予期するので、全体―部分の関係が緊密な場合には、部分のみで全…

第56回東北・北海道地区一般教育研究会

会場となった北海学園大学札幌キャンパスは、地下鉄東豊線学園前の駅と一体化しているという、とてもユニークで便利な場所です。昨日から地区の多くの大学から大勢の参加者が、講演・分科会・全体会で討議を行いました。 内容は省略しますが、とにかく、動機…

断章集積形式(フラグメント形式)

坪内逍遙の『小説神髄』は、社会進化論をベースとした小説論で、いわば小説進化論を説いた理論書ですが、小説の内容として、因果関係で結ばれた緊密で一貫した物語を求めています。これは、いわば西洋文学の金科玉条であり、古くはアリストテレスの『詩学』…

書簡体小説3(メタ書簡体)

太宰治はドキュメント形式の達人です。『人間失格』『斜陽』「女生徒」などは手記体、「HUMAN LOST」は日記体、「猿面冠者」「虚構の春」「風の便り」その他は書簡体で、他にカルタ形式の「懶惰の歌留多」というのまであります。このうち、「猿面冠者」と「…

書簡体小説2(全面的書簡体、挿入式書簡体)

ルソー『新エロイーズ』、ゲーテ『若きヴェルテルの悩み』、ドストエフスキー『貧しき人々』、ラクロ『危険な関係』……19世紀ヨーロッパでは、各作家の代表作と言うべき作品として、書簡体小説が書かれました。このジャンルの流行の度合が分かりますが、それ…

ドキュメント形式3

手紙、日記、手記。これらが文芸テクストにおける3大ドキュメント形式です。いずれも、「隠された真実の暴露」という性格において共通しています。もちろん、「真実」は真実というよりは、物語としての魅力に重点をおいて構築されます。多くの場合、退屈な事…

書簡体小説

小説と手紙。人の心を驚かし、人の心を愉しませる、この2大言語形式が結びつくことに、さして疑問の余地はないかも知れません。「世界は小説と手紙(メール)とで出来ている」と極論する哲学者もいるほどです。……もちろんこれは冗談ですけどね。しかし、これ…

ドキュメント形式2

文芸テクストに現実の文書の体裁が用いられるドキュメント形式が、実際のドキュメントと異なる要素は、虚構と非虚構との差異と重なる、と前に書きました。これをもう少し敷衍すると、次のようになります。 1)情報の実在性 ドキュメントは、執筆や、発信・…

様式史研究会開催のお知らせ

恒例の様式史研究会(第48回研究発表会)を下記の予定で開催します。 どなたでも参加できます。参加無料です。 お誘い合わせの上、ふるってご参加ください。 お問い合わせはここにコメントを書き込むか、またはProject Mのメールアドレスまでどうぞ。 日時 2…

姦通小説4

メタ姦通小説の傑作、それは、金井美恵子『文章教室』をおいて外にはありません。主人公・絵真の名はエマ・ボヴァリーから来ていて、姦通小説のジャンル的記憶を喚起します。佐藤絵真の夫も娘も、また絵真自身も不倫していて、佐藤家は姦通一家です。ところ…

姦通小説3

ジャンルは、どのようなものでも、歴史的かつ公共的なフレーム(枠組)です。言い換えれば、私的ジャンルなるものは、あったとしても意味をなしません。また、ジャンルである以上は、何らかの歴史的・公共的な記憶と関わりを持ち、すなわち、ジャンルは、テ…

姦通小説2

姦通を専ら妻の罪と規定した旧法の精神が表現するように、姦通小説の主人公は、典型的には女性です。「有夫ノ婦」が、夫以外の男と肉体関係を持つ行為が姦通の基本であり、姦通小説の定型は、この女性が何らかの形で死(典型的には自殺)を迎えるパターンを…

手にてなす なにごとも

私の高校時代は、吹奏楽と中原中也で明け暮れました。 布の肩掛け鞄には、楽譜と、(またまた)角川文庫の『中原中也詩集』が必ずといっていいほど入っていました。暇さえあれば、それを出しては読んでいました。いったい、それにどこで出会ったのか、もはや…

死んだサイト(ネット・エチケット3)

休眠状態の掲示板。捨てられたホームページ。主宰者の亡くなったブログ。そのようなサイトも、基本的にはサーバーの管理者が手を加えない限り、半永久的に残ります。そこに他人の情報が掲載されていれば、その情報も、半永久的に人目にさらされ続けます。そ…

人物3(小説・映画)

小説の人物は人間ではありません。それは、言葉によって作られた虚構の対象です。たとえ現実に実在した人間をモデルにした人物であっても、人物は想像力の所産であり、実在の人間そのものではありません。もちろん、想像力は現実と結ばれている部分もありま…

大学高等教育センターとは?

このセンターが一番混同されやすいのは、教員育成や、教育学部の施設と間違われるケースです。学内的にもまだ認知度が低いのは、後発の発足であり、しかもこれを全学体制の中にきちんと位置づけようとするトップの意識が乏しい場合です。全国の、教育改革に…

『修辞的モダニズム』訂正のお知らせ

『修辞的モダニズム テクスト様式論の試み』注の一部に脱落がみつかりました。著者献本分、および、2006年5月27日~6月24日出荷分の本です。現在は修正したものを出荷しています。 注が脱落した本をお持ちの方は、版元のひつじ書房までご連絡をいただければ…

心脳コントルバング社会(1)

小野田寛郎少尉が、戦後30年間、フィリピン・ルバング島にとどまって戦闘を継続したのは、彼が陸軍中野学校二俣分校を出た、「秘密戦」、つまり諜報やゲリラを任務とする軍人であったことが深く関係したようです。終戦を知らず密林にこもった彼は、航空機が…