Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

感想集

ムラカミアン宣言

別にことあたらしく言う必要はないのかも知れませんが、やはり、いろいろな意味で、敬愛できる作家というのは、そうざらにあるものではありません。それも、同じ時間を生きている、存命中の作家ということになれば、なおさらのことです。 『色彩を持たない多…

書くことを忘れたあなたへ

「あなたには書くべきことがあり、あなたには書く能力がある。それなのに、なぜあなたは書かないのですか? 私の心のわだかまりは、いつもそのことに向けられています。書かない人に、無理に書かせることはできません。書くことほど、本質的に主体的な行為は…

ソリューション

eラーニングの仕事に携わらなかったら、こんな言葉の用法を知ることもなかったでしょう。つまり、IT技術を利用した問題の解決、というよりは、IT技術上の問題の解決です。IT企業は客に個々のニーズに応じたソリューションを提供する、というように使…

孤独原則2

マリオ・バルガス=リョサは、そのフローベール論『果てしなき饗宴』で、自分はエマに恋をした、ここ20年来の『ボヴァリー夫人』ブームで、多くの人がエマのことを言うのが堪らなく気がかりだ、でも、安心なことに、自分の愛するエマは、虚構の世界にいるの…

氷の街から2

季節は移り、春が来て桜が咲きました。けれども、私の中の冬は変わりません。私は、あの冬の日、からからに晴れた首都から帰ってきて、氷に閉ざされた街で凍えたことを忘れません。私は、高校への出張講義の帰り、吹雪でバイパスを超低速で走ったことを忘れ…

話し下手の話し上手2

話のうまい下手は見かけでしかないので、それだけで人間は決まりませんし、だいたい、「人間が決まる」なんて尊大な言い方です。話が下手でも書くことは得意な人、言葉は苦手でも創作や仕事では成果を上げている人はいくらでもいます。話の技術は人の本質で…

加害者意識

差別・抑圧された弱者の立場に立ち、その状況を作り出している制度・権力者・大衆を批判する。そのような被害者意識の観点からする批評は、力を持ち、人を説得する技に長(た)け、即効的かつ直接的なインパクトを持つことができます。ジェンダー、植民地、…

啓蒙について

「神話は啓蒙であり、啓蒙は神話である」。これはマックス・ホルクハイマー、テオドール・W・アドルノの『啓蒙の弁証法』の骨子です。私はこの本を読んで、文字通り蒙を啓(ひら)かれました。難しい本ですが、長く続く効力を持っています。 古代の神話は、…

先読みについて

英会話の達者な先生から、「英語では先読みをしないことが大事なのよ。相手の言っていないことまで言うと、『あなたは人の心を読むのか?』なんて言われるわよ」と教えられました。日本では逆で、人の気持ちを読んで行動するのが、「気が利く」などと評価さ…

〝感動をありがとう〟?

そんなに簡単に、感動してよいものでしょうか? 世の中には、それほど多くの、感動すべきものがあるのでしょうか? 何にでも興味を持ち、好奇心旺盛に見ること。学校ではそう教えますし、それはどうやら脳の老化防止にもよいようです。しかし、何にでも感動…

孤独原則

あなたの心は私には見えず、私の痛みはあなたには分かりません。だから、最後のところで人は孤独です。むしろ、人に囲まれているとき、活動しているときこそ、孤独は際立ちます。人は一人では生きられませんから、共同体を作り、社会を作り、ことばと情報を…

氷の街から

最近、月に一度くらい上京します。からからに晴れた首都から、氷に閉ざされた私たちの街に帰ってくると、こんなに環境が違うのに、どんな場合にも同じ条件で評価されるなんて不当だ、と思ってしまいます。勉強なんてどこにいたってできる、と言うことは簡単…

話し下手の話し上手

私は学生には常々、明確に話しなさい、積極的に自己表現しなさい、就職活動で困らないように普段から訓練しておきなさい、社会人になるということはコミュニケーションをするということだから、と教えていますが、自分自身、話し上手だとは全然思っていませ…