Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

2006-04-01から1ヶ月間の記事一覧

シミリー(直喩)

馴染みの深い比喩であるのにもかかわらず、シミリー(直喩)の理論は遅れています。「銀河鉄道の夜」から引っ張ってきた次の文を例に借りて、直喩の概説をしてみます。 (1)「僕は立派な機関車だ」(隠喩) (2)「僕は立派な機関車のようだ」(直喩A) (3)「僕…

乾杯について

東欧出身者の街の若い労働者仲間たち。そのうちの一人は、ベトナム戦争で帰らぬ者となり、他に脚を失った者もあります。弔いの後、彼らは仲間の家に集まり、喪服のまま、ビール、コーヒー、オムレツで乾杯します。缶ビールを開け、コーヒーを注ぎ、オムレツ…

シネクドキー(提喩)

「寒いと思ったら白いものが降ってきた」で、「白いもの」=雪を、「今、必要なのは大砲よりバターだ」で、「大砲」=軍事力、「バター」=民生を指示するのが、シネクドキー(提喩)です。前者は、「白いもの」というクラスでそのメンバー(雪)を、後者は…

メトニミー(換喩)

レトリック(修辞学)は、言葉の特異な使用方法の理論です。比喩の理論はレトリックで重要な位置を占めますが、発想・配置や話題の選択などもすべてレトリックの範疇に入ります。さらに、比喩の理論は、歴史上、なぜかメタファー(隠喩)の理論に著しく偏っ…

手すりにも一度

当時古かった中学校の教室では、冬になると石炭ストーブが焚かれました。天井を這うように銀色のダクト(というか太いパイプ)がわたされ、早めに登校した生徒の中には、ストーブのトレイに足を投げ出すようにして本を読むものが幾人かありました。そのよう…

作者

ロラン・バルトの「作者の死」「作品からテクストへ」に代表されるように、テクスト読解の際に作者のコードを利用しないことが、いわゆるテクスト論の徴表であるかのように見なされています。しかし、テクスト論を離れても、作者のコードを過大視するのが一…

ミメーシス

プラトンが『国家』において、詩人を理想国家から追放すべきと述べたのは有名です。プラトンによれば、詩人はミメーシス(真似)を得意とし、人の行為を真似して表現するが、真似はえてして悪い部分、劣悪な性質に偏りがちだというのです。(子どもが親の悪…

境界

文化テクストの様式を空間性の観点からとらえたのが、ユーリー・ロトマンの文化記号学です。文化テクストは、内/外、下/上、我々/彼らといった空間的対立構造を骨格とするような、空間的配置をとるということです。文化テクストとは、その文化に属するあ…

このサイトのポリシー

Project M Annexは、日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信することを目的とします。最近、発信ばかりで投稿をしてくださる方がほとんどないのは残念なのですが、まあこのような押しつけがま…

話し下手の話し上手2

話のうまい下手は見かけでしかないので、それだけで人間は決まりませんし、だいたい、「人間が決まる」なんて尊大な言い方です。話が下手でも書くことは得意な人、言葉は苦手でも創作や仕事では成果を上げている人はいくらでもいます。話の技術は人の本質で…

加害者意識

差別・抑圧された弱者の立場に立ち、その状況を作り出している制度・権力者・大衆を批判する。そのような被害者意識の観点からする批評は、力を持ち、人を説得する技に長(た)け、即効的かつ直接的なインパクトを持つことができます。ジェンダー、植民地、…

ここを過ぎて

私が初めて教壇に立った大学には、「郷土作家研究」という授業がありました。現在ならさしずめ、地元密着ということで珍重されるでしょうが、もともと私は、どこでも(郷里でも、現在も)地元文学なんて考えたこともなかったので、全然ピンと来ないまま、太…

共約不可能性

科学史において、あるパラダイムが、他のパラダイムと、有意味性の条件が全く共有されない場合、2つのパラダイムは共約不可能であると言います。'incommensurability'の訳で、「共役」「共訳」と綴ることもあります。 時空間はいついかなる条件においても均…

姦通小説

小説ジャンルの一つで、いわば、小説の王道を行くものです。恋愛小説の多くが、恋愛の挫折・不可能性を描くものであるのと同様に、恋愛小説の典型としての姦通小説は、姦通の挫折を描きます。恋愛の成就する恋愛小説もあるでしょうが、姦通して万々歳という…