Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

心脳コントルバング社会(1)

 小野田寛郎少尉が、戦後30年間、フィリピン・ルバング島にとどまって戦闘を継続したのは、彼が陸軍中野学校二俣分校を出た、「秘密戦」、つまり諜報やゲリラを任務とする軍人であったことが深く関係したようです。終戦を知らず密林にこもった彼は、航空機が撒くビラの文面も、拡声器から聞こえる兄の声も、住民から徴収したトランジスタラジオが伝える世界情勢も、すべて敵の謀略か、または、味方による逆の意味の命令として解読しました。メディアのメッセージを信じず、常に自分の「秘密戦士」としての信念に依拠して情報を分析し続けた小野田さんの態度は、いわば、現代のメディア批判の先駆とも言えます。

 みのもんたのニュース解説や、「9.11」に発するテロ警戒、小泉構造改革郵政民営化北朝鮮の脅威などは、すべて、メディアが最先端の脳科学の理論(心脳マーケティング)に基づいて行っている刷り込みにほかなりません。YesかNoか、善か悪か、快か不快か、といった二者択一で問われるこれらの戦略は、脳科学だけでなくフロイトの発達理論によっても裏づけられます。たとえそれが自分で実験したわけでもない心脳理論の受け売りや、まさにその脳科学では一度も証明されたことのないフロイトの骨董品的理論の、またかと思うような垂れ流しであれ、とにかく私たちは皆、メディアによって支配されまくっているのだから大変です。