Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

話し下手の話し上手

 私は学生には常々、明確に話しなさい、積極的に自己表現しなさい、就職活動で困らないように普段から訓練しておきなさい、社会人になるということはコミュニケーションをするということだから、と教えていますが、自分自身、話し上手だとは全然思っていません。それどころか、話し上手であることが本質的に価値があることだとも、あまり考えていません。

 人は決して一人では生きられないし、互いに相手によって生かされているとは思いますが、だからといってお仲間に囲まれてわいわいやって日々を送るのが、望ましい生き方だとは思えません。コミュニケーションは、コミュニケーションの不完全性を常に含意しています。その意味では、孤独こそ人の生き方です。私は、孤独な人を応援します。

 水準の高い文学や映画は、それぞれの仕方で、孤独の意味や相互理解の不全について深く追求するものです。それは、話し下手についての話し上手、のようなものです。

 表象テクストにおけるこのパラドックスについては、また改めて書きますが、それは人についても言えることです。話し下手でもいい。ただ、どうしても必要であるならば、そういう場面では、話し下手や孤独を隠して振る舞えばそれでいいのです。要するに、処世術です。自分のほんとうの気持ちまで変えることはありません。

 「こころ」のカテゴリでは、人と生について私が考えていることを語って行きます。こんな思想を持っている私の語りは、いつでも、必ずやパラドックスに満ちたものになることでしょう。