Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

卒業論文

 今年度の卒業論文発表会の時期ですが、既にもう、来年度の卒論の相談が始まっています。卒論の執筆は、「書く」「読む」という行為を本質とする文学に関わる者としては、特別の意味をもつ作業であるように思われます。もちろん、卒論だけでなく、すべての書く行為がそうなのですが、その怖さ、つらさ、おもしろさ、そして愉楽に関して、卒論ほど凝縮されたものはほかにないようです。

 ワープロ、パソコンが発達する前は、100枚の論文もすべて手書きでしたし、当然、下書きを書いてから清書するわけです。物理的にもそれは大変な作業で、半年近くの間は、朝昼逆転の生活というのが普通でした。今はパソコンですから、下書きと清書の区別もなく、字の巧い下手も関係なく、徹夜して書く学生は珍しいようです。でも、生まれて初めて書く、まとまった分量と内容の論文が、難物であることに変わりはありません。

 何をどう書くかは、いわば永遠の課題です。綿密な構想を立てても、構想は書いているうちにどんどん変化します。時間・能力の点から、内容的には妥協して後退することが多いけれども、それよりも、まさに書いているその間に、「書く」という行為に目覚めてくるのです。また初めは、どう表現しようかと考えるのですが、そのうちに、書いた文章じたいが自己主張を始めるようになります。すなわち言葉の自立です。

 100枚の論文は、読む側にとっても難物です。でも、こんな言葉の体験をさせてくれる営為などというのは、外にはありません。卒論、それは言葉との第二の出会いです。だから、これから卒論を書くあなた、あなたも存分に、苦しんでください。いつかあなたに、書くことのランナーズ・ハイが訪れることでしょう。