Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

メタファー(映像の)

 キューブリック監督『2001年宇宙の旅』の第1部から第2部への移り目で、猿人の投げ上げた骨器のショットが宇宙空間を漂う宇宙船のショットへと連続する場面があります。骨=宇宙船は、どちらも円筒形をしていて、形態の類似性は明らかです。

 ここから、宇宙船はどんなに進歩していても、猿人の使う骨器と同じ道具であるとする表意作用が得られます。そしてよく見ると、船内を漂うペンや、この映画で重要な役目を果たすモノリスも円筒形や角柱などの細長い形をしています。発達したテクノロジーは、果たして人間を幸福にするのかという、テクノロジーと人間との関わりを問題にする近未来SFの課題を、このような表現は明確にしています。

 これは映像におけるメタファー(隠喩、暗喩)の例です。ここでは形態の類似性ですが、その他の属性であることもあります。北野武監督『ソナチネ』中、空に投げ上げた赤い花が、赤いフリスビーの円盤、そして射殺される男の鮮血の色と連鎖を形作るシークェンスがあります。ここでは、色が類似性の契機とされています。

 映像のメタファーは、単なる物語や、言語化されたメッセージ(科白、字幕、タイトルなど)以外の要素として、映像そのものが深い表意作用をもたらしてくれる、魅力的なポイントであると言えます。