Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

 白い箱、赤と黒の背文字、カバーは黒、カバー背文字は白と金、そして本体は黄色。新潮社版『カミュ全集』の装丁です。当時、『異邦人』『シーシュポスの神話』『ペスト』『転落・追放と王国』など、アルベール・カミュの主要な作品は、銀色のカバーの新潮文庫から出ていました。私はそれ以外にも、『反抗的人間』『正義の人々』、さらには時局を扱った論文なども読みたいと思い、一冊、また一冊と、お金が入るごとに、全集を買い集めていました。

 丸善、アイエ書店、金港堂、そして大学生協……。けやき並木の仙台の街を歩き回り、今ではちょっと考えられないことですが、目にとまるたびに買い揃えていったのです。本を注文する仕方を知らなかったのかも知れません。なにしろ白い箱なので、既に汚れている場合もあり、消しゴムできれいにして書棚に並べたりもしました。しばらくの間、『カミュ全集』は、私が全巻揃いで持っている唯一の全集でした。大学の2、3年生の頃だったと思います。それから、『直観』や『アメリカ・南米紀行』など、単行本で出版される分も買い足しました。

 私は卒業論文有島武郎を扱ったのですが、実は、日本文学でカミュにいちばん似ているかと思われた作家に決めたのです。フランス語を大学で教わって、最初に挑戦したのは『異邦人』でした。そもそも、フランス語を選んだのさえ、高校時代に『異邦人』を読んでいたからかも知れません。学生カードにも、「読書」の欄にカミュと書いた記憶があります。幸か不幸か、外国語が得意ではなかったので、仏文にも哲学にも行かず、国文の道を歩んだのです。それも、成績不良のため、危ないところでした。国文は人気学科でしたから。

 カミュから何を学んだのか……。これは、一言では言えません。このブログの限界を超えています。それほどまでに、それは私にとって大事な、本質的なものです。ただ、有名で人目を引く『異邦人』よりも、一見地味な、『転落』や『追放と王国』こそ、長く、強く残響を響かせる重いテーマを宿していると思います。カミュについては、その後も資料が出され、研究も進んでいます。私は自分の専門にかまけて、いつの頃からかフォローすることをやめました。そのことを残念に思うとともに、にもかかわらず、今でもやはり、私は私のカミュを追い続けている、と感じてもいます。