Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

話し下手の話し上手2

 話のうまい下手は見かけでしかないので、それだけで人間は決まりませんし、だいたい、「人間が決まる」なんて尊大な言い方です。話が下手でも書くことは得意な人、言葉は苦手でも創作や仕事では成果を上げている人はいくらでもいます。話の技術は人の本質ではありません。

 作家の文体が人それぞれ全然違うように、話し方も人それぞれ異なっていてよいし、異なって当然なのです。人は他人にはなれません。「文は人なり」の伝で言えば、「話は人なり」です。特定のスタイルを求めたり押しつけたりしない方がよいので、これはどんなことにでも言えます。

 とはいえ、学校でも社会でも、話し上手は有利ですし、演習や就職活動でちゃんと話ができないと点数に関わりますし、何よりも人から見られているイメージが気になり、そうしたことすべてが悩みの種になることも事実です。話し上手になるのは、一つの理想です。私も話し下手なので、気持ちはよく分かります。

 初めは、話す前に、簡単でもよいので、話す内容を書いてみましょう。私の場合、初仕事の時から講義のノートは全部ワープロで一字一句事前に入力し、冗談や脱線まで書き込んだこともあります。話し下手だということに、ものすごい危機感をもっていたので、意識的にこれに取り組みました。

 言うまでもなく、話し言葉と書き言葉は違うので、文章語を読むようなことに極力ならないように留意して、しかし、台本がそろっていると芝居はやりやすいものです。これを、10年くらいは続けましたね。書くことで頭に入りますし、内容を事前に精査することもできます。また、私の場合は、その副産物として、講義の内容を論文化するのも容易でした。

 すると、「先生は講義の際にノートを見ていて顔を上げない」と言われました。申しわけありません、でもこちらも必死です! ノートがなければ講義ができないような状況が続きました。でも、……今はかなり平気です。むしろ、学生と一緒に使うスライドやテキスト資料をちゃんと作れば、ノートはなくても大丈夫になりました。

 あなたも、スピーチや面接の際、初めはぜひ、どんなことを話すのか書いてみてください。さすがに面接では原稿を読むことはできないでしょうから、あらかじめ何度も予行演習をして、書いたことを頭に入れてください。書いてみると言葉になる、というのは、やはり基本中の基本と思われます。