Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

韓国日本近代文学会

 2007年4月7日、韓国・ソウルの韓国外国語大学で開催された韓国日本近代文学会の春季大会にお招きをいただきました。この大会のテーマである村上春樹について、基調講演をしてほしいということでした。韓国でも、他の国々と同様に村上春樹は人気の高い作家です。折しも、その前の週に高麗大学で、ある高名な日本人研究者が村上文学を厳しく批判するセミナーを開いたということを、ソウルに着いてから聞きました。もっとも、私は自分のできることしかできないので、用意してきた内容を淡々と講演しました。

 「村上春樹における『傷つきやすさ』ー『ノルウェイの森』から『海辺のカフカ』へー」というタイトルを出しました。2年ほど前に、福島の文化セミナーで話したことがあり、それを整理し直したものです。初期作品から『カフカ』までの流れをたどりながら、「傷つけられやすさ」と「傷つきやすさ」、いわゆるヴァルネラビリティの問題について論じました。PCスライドを用意したおかげか、反応はまずまずだったと思うのですが、ほんとうのところはどうでしょうか。どうも、聴衆に強い印象を残す、というようなスピーチには、私の場合はならないのです。

 「村上春樹を論ずるーテキスト、読者、翻訳ー」という大会テーマで、私の講演のあとには、4題の研究発表がありました。村上作品の韓国語への翻訳にまつわる様々な問題を中心として、熱気に満ちた活発な討論が行われました。(言葉は分からないのですが、実に熱心なやり取りでした。)時々、報告の中に私の名前が出てくるので、講演の内容を引照されているのだな、と思いもしました。最後の総合討論では、壇上、隣に座った発表者の方が通訳してくださったので、ちゃんと研究上のコミュニケーションも成立しました。

 海外にでかけて、日本語で講演ができたのは大変助かりました。NYでeラーニングのデモをした時は、Zaurus片手に慣れない英語で説明をしたものです。韓国語を勉強したいと思いましたが、まあどう考えても無理でしょう。(時間がないので。)でもとにかく、国境を越えた村上作品の人気を目の当たりにして、これは安閑としていられないなと痛感してきました。そのうち、海外からこそ、すぐれた総合的な村上論が現れることは間違いのないところです。(いや、もう現れているかも。)

 そして、もう敢えて詳しくは書かないつもりですが、招待してくださった会長先生、お世話をいただいた事務局長さん、ソウル市内を案内してくださった先生、その他、おおぜいの方々に、心のこもった歓迎をしていただきました。これほどまでとは思わなかったほどです。知らなかったこととはいえ、高名な研究者に対抗するような内容を盛り込んで、皆さんの期待に応えられればよかったな、と感じました。もちろん、これで終わりではなく、始まりにしたいものです。次は、いっそうヴァージョンアップした村上論をお目にかけましょう!