「初めて」の羨ましさ
「私、あんまり読んだことないんですよ。『ノルウェイの森』と、あと、あの……TVから女の人が見えている……ちょっと変わった書き方の」
「『TVピープル』? あ、『アフターダーク』か。確かに変わってるよね。でも、『ノルウェイの森』を読んだのなら、何でも読めるんじゃない?」
「『ダンス・ダンス・ダンス』は、題名だけ知ってるけど、どうですか?」
「うん。おもしろいけど、連作だから、最初の『風の歌を聴け』から読むのが筋かなぁ。でもでも、『TVピープル』なんかも外せないよ。『象の消滅』とか」
「『ゾウの消滅』? ゾウって?」
「象は象。象が消滅する話」
「短編は読んだことないんです」
「私は短編が好きですよ。長編ももちろんいいけど、短編の方がずっとすぐれていると思う。」
「どれから読めばいいですか?」
「うーん、一冊だけ選べ、と言われたら、『神の子どもたちはみな踊る』かなぁ。『東京奇譚集』も読みやすいと思う。この2冊の間は、すごく長く空いたんだよね。もう短編は、書かないのかと思ったくらい」
「趣味は何ですか? 楽器をやっていた? 『トニー滝谷』は、クラリネットだけど、『レキシントンの幽霊』に入っていて、これもいいよ」
「ちょっと、メモしても、いいですか?」
「あ、でも、やっぱり『中国行きのスロウ・ボート』を読まないとね。最初の短編集だし、欠かせないよなぁ。始まりはやっぱり、『午後の最後の芝生』でないと」
まだ読んでいないということは、これから初めて読む、のでしょう? ほんとうにそれは羨ましいことです。これ以上に羨ましいことなんて、ちょっとほかにないくらい。
私はこれからも、これらの作品を何度も読むでしょう。でも、それらを、「初めて」読むことは、もう決してできないのです。もちろん、それはこの作家のものだけではありません。しかし、やはり、「初めて」の羨ましさを感じるほどの対象というのは、そうざらにあるものではないでしょう。
……ちなみに、この話に教訓などはありません。
「『TVピープル』? あ、『アフターダーク』か。確かに変わってるよね。でも、『ノルウェイの森』を読んだのなら、何でも読めるんじゃない?」
「『ダンス・ダンス・ダンス』は、題名だけ知ってるけど、どうですか?」
「うん。おもしろいけど、連作だから、最初の『風の歌を聴け』から読むのが筋かなぁ。でもでも、『TVピープル』なんかも外せないよ。『象の消滅』とか」
「『ゾウの消滅』? ゾウって?」
「象は象。象が消滅する話」
「短編は読んだことないんです」
「私は短編が好きですよ。長編ももちろんいいけど、短編の方がずっとすぐれていると思う。」
「どれから読めばいいですか?」
「うーん、一冊だけ選べ、と言われたら、『神の子どもたちはみな踊る』かなぁ。『東京奇譚集』も読みやすいと思う。この2冊の間は、すごく長く空いたんだよね。もう短編は、書かないのかと思ったくらい」
「趣味は何ですか? 楽器をやっていた? 『トニー滝谷』は、クラリネットだけど、『レキシントンの幽霊』に入っていて、これもいいよ」
「ちょっと、メモしても、いいですか?」
「あ、でも、やっぱり『中国行きのスロウ・ボート』を読まないとね。最初の短編集だし、欠かせないよなぁ。始まりはやっぱり、『午後の最後の芝生』でないと」
まだ読んでいないということは、これから初めて読む、のでしょう? ほんとうにそれは羨ましいことです。これ以上に羨ましいことなんて、ちょっとほかにないくらい。
私はこれからも、これらの作品を何度も読むでしょう。でも、それらを、「初めて」読むことは、もう決してできないのです。もちろん、それはこの作家のものだけではありません。しかし、やはり、「初めて」の羨ましさを感じるほどの対象というのは、そうざらにあるものではないでしょう。
……ちなみに、この話に教訓などはありません。