Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

第1回 1950年代日本〈映画-文学〉相関研究会案内

■日時 2011年3月12日(土)13時~17時30分
■会場 北海道大学東京オフィス

※参加は要登録。一般公開はいたしません。

□研究発表
1 『彼岸花』・『秋日和』成立の背景―「原作:里見弴」の意味するもの―
早稲田大学オープン教育センター研究助手 宮本 明子
2 戦後イメージのなかの1950年代―押井守作品を基点に―
日本学術振興会特別研究員(名古屋大学) 水川 敬章

□ラウンドテーブル
1 日本映画と日本文学の横断的研究動向
立命館大学ポストドクトラルフェロー 友田 義行
2 〈原作〉の記号学―『羅生門』『浮雲』『夫婦善哉』など―
北海道大学大学院教授 中村 三春
3 1950年代における大藤信郎のアニメーション的想像力―「国歌 君が代」に着目して―
専修大学准教授 米村みゆき

科学研究費  基盤研究(C) 課題番号22520120
「1950 年代日本映画と日本文学との相関研究」(研究代表者 中村三春)


(発表要旨は「続きを読む」をクリック)
[研究発表1]『彼岸花』・『秋日和』成立の背景―「原作:里見弴」の意味するもの―
宮本 明子   
 小津安二郎は1950年以前から志賀直哉、里見弴ら多くの作家やその著作に親しんでいた。なかでも里見弴に関しては、『戸田家の兄妹』(1941年)をはじめ小津みずからその著作からの引用・影響を公言していた。『彼岸花』(1958年)、『秋日和』(1960年)では里見の同名の著作が「原作」であるとクレジットに明記されている。とはいえ、シナリオには里見の他の作品の台詞や設定を用いたとみられる部分もあるなど、映画と「原作」には明瞭な差異が散見される。「原作」と冠していながらその「原作」からは自由なシナリオが、小津と里見のどのようなかかわりから生まれたのか、また同様の事例が1950年代においてはみとめられるのかどうかを、草稿から完成稿に至るシナリオや小津の遺稿を第一次資料としながら検討してゆく。

[研究発表2]戦後イメージのなかの1950年代―押井守作品を基点に―
水川 敬章   
 本発表は、映像作家でありまた小説家でもある押井守の作品を通じて、所謂「戦後イメージ」について議論を行うものである。そして、その中で1950年代をめぐるイメージを検討することを考えている。つまり、現在の表現の中から50年代を含めた戦後イメージの一部を検討することを目論んでいる。本発表では、このテーマに関わる押井作品―『人狼』『立喰師列伝』など視覚表現や、押井の自家解説・小説などの言語表現を横断しながら検討し、その中で1950年代が持つ意味を考えたい。現時点においては、この作業の過程で、近年の1950年代研究におけるアプローチ=50年代に対する認識や、宮崎駿関連作品における1950年代の表現なども参照して比較検討の材料にしながら、議論を構築することを予定している。

[ラウンドテーブル1]日本映画と日本文学の横断的研究動向
友田 義行   
 〈映画と文学〉というテーマは古くて新しい研究課題である。日本映画と日本文学を横断した研究も、これまでに少なからず蓄積されてきた。1950年代日本映画と日本文学との相関研究を新たに切りひらくにあたり、これまでの研究を整理してその成果と課題を吟味するとともに、主要な研究者および研究対象、今後の研究に活用できる文献やデータベース、アーカイブなどの情報を整理することを試みる。
 1950年代を軸としながら、おおよそ昭和全般を視野に入れて概括し、議論の礎としたい。

[ラウンドテーブル2]〈原作〉の記号学―『羅生門』『浮雲』『夫婦善哉』など―
中村 三春   
 映画の〈原作〉とは、いったい何なのだろうか。
 ジュネット浩瀚な『パランプセスト』(1982)は、文芸における元テクストとの関連性を本質とするテクストであるパロディ、パスティシュの綿密な考証を行ったが、そこには〈原作〉
(original)の項目が見あたらない。だが〈原作〉もまた、第2次性のテクスト(いわゆる二次創作)が成立して始めて〈原作〉となるところの、引用・変形理論の対象にほかならない。1950年代日本映画における文芸テクスト原作の問題を、いくつかの作品を材料として、変形・付加・縮小等の操作概念を念頭に置いて整理してみたい。

[ラウンドテーブル3]1950年代における大藤信郎のアニメーション的想像力
 ―「国歌 君が代」に着目して―                
米村みゆき
 1950年代のアニメーション状況を概観しつつ、日本文学を原作とする大藤信郎のアニメーション作品を検討し、大藤のアニメーションの想像力とはどのようなものであったかを考察する予定である。具体的には、1950年代作品に影響を与えたという『国歌 君が代』(1931)に着目する。周知のように『君が代』の源泉は『古今和歌集』であるが、このアニメーションは、『古事記』のイザナギイザナミの登場、天の岩戸伝説を下敷きにしたショットが存在するなど興味深い要素が見受けられる。〝日本神話〝の登場がどのような想像力と結びついたのか、探ってゆきたい。