Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

雑草魂(レポートの書き方2)

 テクストは岩塩のようです。入口も出口もなく、硬くて歯が立たず、やたらに刺激的なだけです。何をどう論じてよいやら分からず、言いたいことはもう既に言われてしまっている。それでも、何か書きたい気がします。私でなければ、誰にも思いつかないような何ものかを、どうかして言葉にしたいのです。

 このような行き詰まり状態に陥ったら、まず顔でも洗って気を落ち着け、それから次のようにしてみましょう。

 1)気になるフレーズを抜き書きする。
 2)どうしてそれが気になるかを、違う色のペンで横にメモする。
(私は行き詰まると、PCをとめて、大学生協の原稿用紙を出してボールペンで書きます。)
 3)1・2の作業を終えたら、共通に気になる事項をチェックする。
 4)3の項目をリストにして、項目間に脈絡ができるように配列する。
 5)4の項目を章の主題として、各章の概要を書いてみる。
 6)5の概要に従って、各章の下書きを本格的に書く。1のフレーズを引用文としても活用する。
 7)6の下書きを連関させて、論文としてまとめてゆく。

 なお、「先行研究の引用の仕方」は、別に項目を立ててあります。細かく分けましたが、ワープロですれば、全体として一連の作業となります。特定の方法論を動員するのは、書くのに慣れてからでよろしいでしょう。

 私は『或る女』論を書いた時、一夏ほども、苦しみ抜いて過ごしました。何しろ対象は長編、先行研究は膨大で、ほとほと膠着しましたが、これで何とか乗り切りました。今見ても、のたうち回った跡がありありと分かる論文です。

 論文を書くことは、最も容易な自己実現の方法の一つです。しかし、名文を量産する一握りのエリートは別として、多くの書き手にとって、すらすら書けるなど、ありえない話です。うんうん唸って書くしかありません。ただ、書くことの大半は技術であり、技術は学び、習得することができ、だからこそ一定水準の論文は、がんばればきっと書けます。

 書きたい人、書きたいことのある人、にもかかわらず容易に書けない人は、雑草魂で進むしかないのです。論文執筆に王道はありません。人知れず、心の奥に秘められたあなたの言葉を、私は論文として読んでみたいと願います。表現されなければ、それは、無かったも同じです。