Project M Annex

日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信します。皆様からの自由な投稿を歓迎いたします。(旧ブログからの移転に伴い、ブログ内へのリンクが無効になっている場合があります。)

2006-01-01から1年間の記事一覧

心脳コントルバング社会(2)

その支配から脱する方法は、断片化された情報を、「なぜ?」の問い直しによって因果関係を遡り、コンテクストに置き直すことです。その結果は言うまでもなく、みの・テロ警戒・小泉・ブッシュ・北朝鮮などについてメディアの伝えることに、一律、Noと答える…

心脳コントルバング社会(3)

結論として、「我、疑うゆえに我有り」という態度で、メディアに接することが必要です。疑っている我を疑うことはできません。だからこそ、小野田さんは、自分の理論に徹底的に即して、情報を分析したのです。彼が結局、日本軍国主義というイデオロギーに心…

メロドラマ

陳腐・通俗・下級の代名詞のように用いられていたメロドラマという言葉に、ジャンルとして初めて明確な位置づけを与えたのは、加藤幹郎の重要な業績です。『映画のメロドラマ的想像力』には、メロドラマは「過剰なる感情のための過剰なる形式」であり、観客…

世代論

現代の文芸・文化批評において、世代論は、《似たような表現・発想・思想を共有する人たち》を問題とする、というほどの意味で用いられます。世代に関する語彙は、「70年代」「90年代」などの時代や、「団塊の世代」「全共闘世代」などの歴史的用語となった…

液状化(マンガ・アニメ)

マンガ版『風の谷のナウシカ』で、僧会のマッド・サイエンティストらによって培養された粘菌は、ナウシカの手で解放され、地表を覆い尽くして荒廃させます。反面、腐海は多層に分かれていて、土壌の毒を浄化し、砂と水に還元するロボットであることが明らか…

癒合(映画・アニメ)

近未来SF映画は、テクノロジーと人間との関わりを描き、それによって文明の未来を批判的・懐疑的に考察します。そのようなトピックを鮮明に呈示する表現として、人体と異物(機械・装置)との癒合(merging)が挙げられます。例えば、デイヴィッド・クロー…

求心的/離心的(レポート・論文の書き方6)

「文庫本一冊で論文を書く」という言い回しがあります。小説なら小説1作品だけを徹底的に読み込んで、それに対して自分の持っている理論のフレームだけを適用して論じる、という意味です。概ね、〝安直な論文の書き方〟として否定的に見られる論法なのですが…

総目次(2006年5月~6月)〈2〉

【授業の補足】 起承転結―再び(論文・レポートの書き方5) 掲示板への投稿(ネット・エチケット2) 色っぽい文章(言葉に付加価値を!2) 言葉に付加価値を! 詩を読む2 アクロバット(論文・レポートの書き方4) [重要]ファイル・バックアップ 言葉…

総目次(2006年5月~6月)〈1〉

【術語集】 ストゥディウム/プンクトゥム 定型(物語5) 暗闇の中における跳躍2 小説(ジャンル)2 近未来SF(ジャンル) 近代・ポスト近代 暗黒の中における跳躍 モンタージュ テクスト分析(物語4) 神話批評(物語3) 法=差別(物語2) 物語(疑…

たえず企画したえずかなしみ

中学入試用に買った国語参考書の巻末に、「雨ニモ負ケズ」が収められていました。私はその頃、それを全文暗唱できました。でも、私の知っている宮澤賢治の詩はそれだけでした。 小学校の夏休みの副読本に、「宮澤賢治の愛」のような挿話が載っていました。郷…

ストゥディウム/プンクトゥム

ロラン・バルトの写真論『明るい部屋』(「暗い部屋[camera obscura=カメラ]」のもじり)に示された用語です。バルトの写真論はちょっとユニークで、まず、写真はコードのないメッセージ、つまり現実そのものだ、というものです。これは、根元的虚構論の…

起承転結―再び(論文・レポートの書き方5)

学期末が近づき、レポートの執筆に頭を悩ませる季節となりました。簡単にレポートを書けるフレームワークを示してみましょう。文学・映画準拠でまとめてありますが、他の対象にも、もちろん拡張可能です。6枚のレポートを書くとしたら、次のように構想してみ…

定型(物語5)

イーザーの『行為としての読書』やロトマンの『文学理論と構造主義』など、情報理論を取り入れた読解の方法論では、「テクストと読者とが各々所有する情報のバランス」が問題にされています。 イーザーのレパートリーは、テクスト・読者が所有する情報そのも…

暗闇の中における跳躍2

「私は、インターネットの中で笑い、インターネットの中で泣くでしょう。私の声は、言葉は、私の愛も、憎しみも、すべて、Uniコードに変換され、パケットに乗って送信されるでしょう。私はそこで、すべてを見、すべてを手にしますが、ほんとうは何も見えず、…

パセリ、セージ、ローズマリー、&タイム

私を吹奏楽に誘った女の子は、ビートルズファンになって私にビートルズを教える前は、サイモンとガーファンクルのファンで、それで私も最初にS&Gのファンになりました。まったく、かえすがえすも、主体性ゼロの中学時代です。 私は外国語オンチで、国際交…

鎮魂歌

私が中学生の頃、何か本でも買えと言われて、盛岡市肴町の東山堂書店の仮店舗(当時、新築中でした)のプレハブで、初めて買った単行本は、『ヒロシマの証言』という被爆記録集でした。それは、学生・主婦・労働者などが、突然の災厄に見舞われ、どのように…

掲示板への投稿(ネット・エチケット2)

LMS(授業支援システム)上の掲示板や、無料掲示板などで、授業に関する質問・相談、意見交流、補足情報の提供などを行っています。ところが、これらが今一つ盛り上がらないのです。学会の席上、他大学の担当者たちと意見を交換したところ、次のような事由が…

色っぽい文章(言葉に付加価値を!2)

大学では初年次の導入教育における、基礎的スキルを育成する授業開発が盛んで、コンピュータリテラシー、英語能力のほか、言語運用に関するセミナー型の授業が、広く行われています。人に読ませるべきリポートを書いても、いっこうに感想文の水準を出ない、…

言葉に付加価値を!

YU教養教育「詩は滑稽だ」の授業では、詩を読むにあたって覚えておくとよい、比喩の理論や、配置の理論について概説しています。すなわち、隠喩・提喩・換喩・直喩の四大比喩やアイロニー、反復や倒置法などです。たぶん、TUADの文芸研究入門「宮澤賢治の文…

小説(ジャンル)2

芸術としての文芸という観点から小説をジャンル論的に定義しようとする際に、第一に問題となるのは、まさに、小説というのは芸術なのだろうか?という疑問です。小説が広く娯楽として流通した時代に、哲学者・美学者たちは、小説に正面から向き合おうとしな…

満潮になると河は膨れて

院生時代、演習で横光利一の「蠅」を担当した話は前に書きました。それ以前からも横光は気にかかる作家ではありましたが、文庫本で出ている作品数が少なく、大半の作品は、河出書房新社版の全集が刊行された際に読んだのです。最初は、大学図書館に入ったの…

近未来SF(ジャンル)

近未来SF映画は、人類の文明にとって重要な事項であるテクノロジーの発達が、人間の意識と生存に対して、どのように関与するかを主要なテーマとしています。いわば、テクノロジーの倫理です。典型的には、ロボットとマッド・サイエンティストの組み合わせに…

近代・ポスト近代

チャールズ・ジェンクス『ポストモダニズムの建築言語』は、建築の近代主義が、単一の機能や価値観を追求してきたのに対し、多様な価値の共存と折衷を認める建築様式を、ポストモダニズムと呼びました。ジャンフランソワ・リオタールの『ポストモダンの条件…

暗黒の中における跳躍

ソール・A・クリプキ『ウィトゲンシュタインのパラドックス』で問題とされ、柄谷行人『探究I』などが大きく取り上げた概念です。もともとは、後期ウィトゲンシュタインの『哲学探究』などで述べられた「言語ゲーム」の理論、すなわち、言語のルールが共有…

詩を読む2

「詩は滑稽だ」とは、谷川俊太郎「世間知ラズ」の一節です。これをタイトルに借りて、前期のYU教養教育では、抒情から反抒情への現代詩の流れを概括し、『ひつじアンソロジー 詩編』をテキストにして、具体的に詩の読み方を解説しています。詩の読み方として…

空のキャデラック

ジャンリュック・ゴダールが『映画史』その他でアメリカ映画、特にスティーヴン・スピルバーグを批判したことは知られています。クロード・ランズマン監督の『ショアー』が公開された後、ゴダールやランズマンの間で映画の可能性が論議され、返す刀でスピル…

モンタージュ

映画学校に映画実験工房(クレショフ工房)を設け、様々なモンタージュの実験を試みていたレフ・クレショフは、一般に「クレショフ効果」と呼ばれる現象を発見していました。俳優イヴァン・モジューヒンの同じクロース・アップに、次々と違うフィルム断片を…

アクロバット(論文・レポートの書き方4)

こんなことを教える先生はいないんじゃないかと思いますが、私は、論文ではできることならアクロバットをやるべきだと考えています。アクロバット、それは、読む者をあっと言わせるような論述のことです。しかし、それは単なる無根拠や支離滅裂とはもちろん…

テクスト分析(物語4)

世界にはたくさんの物語があります。小説、神話、絵本、映画、ゲーム……。それらの多様性を、いわば「物語の文法」「物語の辞書」を作ることによって、統一的に把握することはできないでしょうか。このように考えて、記号学の方法を動員し、物語の一般法則を…

ノー・リプライ

中学時代、私を吹奏楽に誘った女子生徒は、ピアノが上手で、おまけに大のビートルズファンでした。その子の影響で、私もまたビートルズファンになりました。毎日、あけてもくれても、ビートルズばかりを聴いていました。 私は1週間続いたNHKFMの昼のビートル…