2006-01-01から1年間の記事一覧
物語は自由自在な言説というよりは、行為する人の様態を、効果を上げるよう技巧を凝らして語ることであるとする主張は、既にアリストテレス『詩学』のミュートスの理論にあります。ミュートスとは、現在の「神話」の語源ですが、物語あるいは物語の筋を指す…
物語は共同体と深い関わりをもつ、とする考え方があります。もともと、モノをカタルという行為じたいが、人と人とを結びつけるコミュニケーションの重要な役割を担います。これに関して最も明快な定義を行ったのは、中上健次でしょう。『風景の向こうへ』に…
物語を読むことはどのような行為なのでしょうか。それを現象的な局面からとらえてユニークなのは、ジェラルド・プリンスの語り論です。プリンスの語り論は、読むことのファクターを大きく導入した点が特記されます。すなわち、物語を読むことは、読者が、テ…
修士課程のとき、演習の担当で横光利一の「蠅」を発表しました。8階の研究室に戻るときに先生とエレベーターで一緒になり、『上海』を読んで圧倒されたとお話したら、先生は、あれは最近、都市文芸学ということで話題になっています、と言われました。しかし…
暑い夏の日でした。本郷の通りを探し歩いて、その小さな記念館に入ったときには、汗がすーっと引いていきました。その時期には、建築家でもあった詩人が設計した家屋の模型や設計図などが、集中的に展示されていました。すれ違うのもやっとの狭い通路。でも…
卒業論文の準備を始める時期を迎えました。構想や書き方について、少しずつ取り上げていくつもりですが、論文を執筆しようとする際の、基本的な心得があります。それは、「ファイルのバックアップ」なのです! バックアップ? それが卒論対策? と疑問をもつ…
小説は、他の言語形式をジャンルとしてパロディ化し、次々と取り込んでいくジャンルである、だから小説は、未だ発展途上の、未完成のジャンルである。このように主張したミハイル・バフチンの『叙事詩と小説』は、小説というジャンルの論議を大きく進めたよ…
ミハイル・バフチンの文芸理論の代名詞となった概念です。『小説の言葉』では、小説の語り手はイデオロギー的な存在であるというテーマとともに、小説の語り手の声は一つではなく、由来を異にする複数の声が葛藤を繰り広げる対話の声であるとされます。『ド…
マリオ・バルガス=リョサは、そのフローベール論『果てしなき饗宴』で、自分はエマに恋をした、ここ20年来の『ボヴァリー夫人』ブームで、多くの人がエマのことを言うのが堪らなく気がかりだ、でも、安心なことに、自分の愛するエマは、虚構の世界にいるの…
季節は移り、春が来て桜が咲きました。けれども、私の中の冬は変わりません。私は、あの冬の日、からからに晴れた首都から帰ってきて、氷に閉ざされた街で凍えたことを忘れません。私は、高校への出張講義の帰り、吹雪でバイパスを超低速で走ったことを忘れ…
論文を誰に向けて書きますか? 一番単純な答は、「先生に向けて」でしょう。そのレポートを読んで評価する人を念頭に置いて書くのは、基本です。が、それが教員への迎合や阿(おもね)りになるとすれば、それは書く側以上に、教員が良くないのです。自分の学…
【授業の補足】 アイロニー 何がおもしろい仕事 考えずに答えよ 先行研究への対応 様式と技術(映画の) 【こころ】 話し下手の話し上手2 加害者意識 啓蒙について 先読みについて 【動き】 文学とパワーポイント 人とネットワーク 第12回大学教育研究フォ…
【サイト告知】 このサイトのポリシー 初心忘るべからず 【術語集】 シミリー(直喩) シネクドキー(提喩) メトニミー(換喩) 作者 ミメーシス 境界 共約不可能性 姦通小説 作者、テクスト、文化研究 発話と主体 係争中の主体 メタフィクション3 倒置法 …
テクストは岩塩のようです。入口も出口もなく、硬くて歯が立たず、やたらに刺激的なだけです。何をどう論じてよいやら分からず、言いたいことはもう既に言われてしまっている。それでも、何か書きたい気がします。私でなければ、誰にも思いつかないような何…
MG表象文化論の一節「私は嫌いな食べ物がないので何でもよくかんでおいしく食べます。文芸や映画も同じです。考えてごらんなさい、大きなお皿にごちそうが並んでいて、ただ1コだけ、とてもすっぱい食べ物がのっている。それを理由として、ごちそう全体を食…
馴染みの深い比喩であるのにもかかわらず、シミリー(直喩)の理論は遅れています。「銀河鉄道の夜」から引っ張ってきた次の文を例に借りて、直喩の概説をしてみます。 (1)「僕は立派な機関車だ」(隠喩) (2)「僕は立派な機関車のようだ」(直喩A) (3)「僕…
東欧出身者の街の若い労働者仲間たち。そのうちの一人は、ベトナム戦争で帰らぬ者となり、他に脚を失った者もあります。弔いの後、彼らは仲間の家に集まり、喪服のまま、ビール、コーヒー、オムレツで乾杯します。缶ビールを開け、コーヒーを注ぎ、オムレツ…
「寒いと思ったら白いものが降ってきた」で、「白いもの」=雪を、「今、必要なのは大砲よりバターだ」で、「大砲」=軍事力、「バター」=民生を指示するのが、シネクドキー(提喩)です。前者は、「白いもの」というクラスでそのメンバー(雪)を、後者は…
レトリック(修辞学)は、言葉の特異な使用方法の理論です。比喩の理論はレトリックで重要な位置を占めますが、発想・配置や話題の選択などもすべてレトリックの範疇に入ります。さらに、比喩の理論は、歴史上、なぜかメタファー(隠喩)の理論に著しく偏っ…
当時古かった中学校の教室では、冬になると石炭ストーブが焚かれました。天井を這うように銀色のダクト(というか太いパイプ)がわたされ、早めに登校した生徒の中には、ストーブのトレイに足を投げ出すようにして本を読むものが幾人かありました。そのよう…
ロラン・バルトの「作者の死」「作品からテクストへ」に代表されるように、テクスト読解の際に作者のコードを利用しないことが、いわゆるテクスト論の徴表であるかのように見なされています。しかし、テクスト論を離れても、作者のコードを過大視するのが一…
プラトンが『国家』において、詩人を理想国家から追放すべきと述べたのは有名です。プラトンによれば、詩人はミメーシス(真似)を得意とし、人の行為を真似して表現するが、真似はえてして悪い部分、劣悪な性質に偏りがちだというのです。(子どもが親の悪…
文化テクストの様式を空間性の観点からとらえたのが、ユーリー・ロトマンの文化記号学です。文化テクストは、内/外、下/上、我々/彼らといった空間的対立構造を骨格とするような、空間的配置をとるということです。文化テクストとは、その文化に属するあ…
Project M Annexは、日本近代文学・比較文学・表象文化論の授業や研究について、学生や一般の方の質問を受けつけ、情報を発信することを目的とします。最近、発信ばかりで投稿をしてくださる方がほとんどないのは残念なのですが、まあこのような押しつけがま…
話のうまい下手は見かけでしかないので、それだけで人間は決まりませんし、だいたい、「人間が決まる」なんて尊大な言い方です。話が下手でも書くことは得意な人、言葉は苦手でも創作や仕事では成果を上げている人はいくらでもいます。話の技術は人の本質で…
差別・抑圧された弱者の立場に立ち、その状況を作り出している制度・権力者・大衆を批判する。そのような被害者意識の観点からする批評は、力を持ち、人を説得する技に長(た)け、即効的かつ直接的なインパクトを持つことができます。ジェンダー、植民地、…
私が初めて教壇に立った大学には、「郷土作家研究」という授業がありました。現在ならさしずめ、地元密着ということで珍重されるでしょうが、もともと私は、どこでも(郷里でも、現在も)地元文学なんて考えたこともなかったので、全然ピンと来ないまま、太…
科学史において、あるパラダイムが、他のパラダイムと、有意味性の条件が全く共有されない場合、2つのパラダイムは共約不可能であると言います。'incommensurability'の訳で、「共役」「共訳」と綴ることもあります。 時空間はいついかなる条件においても均…
小説ジャンルの一つで、いわば、小説の王道を行くものです。恋愛小説の多くが、恋愛の挫折・不可能性を描くものであるのと同様に、恋愛小説の典型としての姦通小説は、姦通の挫折を描きます。恋愛の成就する恋愛小説もあるでしょうが、姦通して万々歳という…
研究教育の現場では、ある時代にはコピー機が、次の時代にはワープロ、そしてPCが、新しい技術として話題となりました。今ならばさしずめeラーニングでしょう。私の時代には、既に中学校でも、当時「ファックス」と呼ばれた輪転式の印刷機を備えていましたが…